プレゼンテーション入門

プレゼンテーションとは?

 

 プレゼンテーションとは何でしょうか? 

 

 簡単に言えば、ある人が他の人々に、自分の発見した事実や自分の意見、あるいは商品などについて、口頭や機器を用いて説明して、 説得、売り込みをはかる行為を指します。商業目的のプレゼンテーションでは、新製品の発表や、売り込みがこれに当たります。
 技術者として、社内での成果報告会や企画の提案、社外での学会発表や新製品の売り込みなど、プレゼンテーションは必要不可欠なものです。技術者に限らず、今後の社会人として身に付けておくべき最低限の技術の一つだと思います。

 

プレゼンテーションの重要性

 

 プレゼンテーションは、仕事の成果報告やプロジェクト提案などにおいて必要とされる技術です。そのような場面において、その内容が大切になりま す。しかし、”内容さえ良ければ、発表の方法は重要でない”という考え方には賛成することが出来ません。どれほど良い仕事内容、または研究成果だとして も、その内容をきちんと説明することが出来なければ、その仕事が評価されないことがあります。これは製品とコマーシャルの関係にも例えられます。いくら良 い製品(技術的に高い製品)を開発しても、コマーシャル、つまりプレゼンテーションが悪ければ、市場では評価されません。逆に、それほど良い製品でなくて も、コマーシャルによって市場に受け入れられることもあります。

 

 全体的に見て、日本人はプレゼンテーションが下手な人が多いようです。なぜなら、日本は基本的に一つの言語、閉鎖された環境、同じ習慣を持ってい る国民ですので、言語によるコミュニケーションの比重を軽く考えがちです。それは、”語らなくても分かる”、”雄弁は銀、沈黙は金”といった考え方や文化 が日本にはあるからです。欧米諸国のように国自体が多民族で構成されていたり、国境越えが日常行為であるような生活習慣を持つ国では、コミュニケーション 能力が非常に重要視されています。つまり、、異民族の混じった西欧世界では、様々な事柄について話し合わねばなりません。腹芸とか、黙って分かり合うと か、行間を読むといったことがなく、すべてをはっきりと話すことを必要とされます。この様なコミュニケーションに関して欧米型の文化が優れていて、日本の 文化が劣っていると言っている訳ではありません。以上のような文化の違いがあるということを述べているに過ぎません。しかし、科学技術の分野では、明確な 情報交換を行うために、発表が明快でなければなりません。そのために、日本的な表現の仕方ではなく、欧米的な表現の仕方をする方がより適しています。

 

プレゼンテーション技術のコツとは?

 

 プレゼンテーション技術は、難しいことでも何でもなく、きわめて当たり前、常識的なことがらの集大成です。プレゼンテーションの準備にかける時間 や精力は、研究・技術開発・製品開発にかける時間や精力から比べれば、微々たるものでしかありません。しかし、その微々たる努力を怠ったために、研究・技 術開発・製品全体が認められないと言うことがあっては、なんとばからしいことです。

 それでは、どうしたらよいプレゼンをすることができるか。それはきわめて簡単なことで、"プレゼンは重要であるという認識を持つこと" に尽きます。つまり、重要であると認めさえすれば、それではどうすればよいプレゼンをできるかという問題意識を持つことになります。すると結果は常識的な ことになりまあす。"OHPシートの字は教室の最後尾からでも読めるように大きく書くこと、そのために1ページには10行以内にすること"、"内容は精選 すること"、"聴衆の興味を引くような図やグラフ、写真を用いること"、"カラーを使うこと"、"時間超過しない"、"大きな声ではっきりとしゃべるこ と"、"聴衆の方を向いてしゃべること"などです。これらのことは当然のことであり、誰にとっても実行はきわめて簡単です。

 

研究発表の構成

 

 発表の基本構造は以下のように示すことが出来ます。

  1. 表紙(タイトル、所属、名前)
  2. 背景・目的
  3. 実験(実験方法、実験内容)
  4. 結果(実験結果のグラフ、表、解析結果等)
  5. 考察
  6. 結論

 研究発表、または実験の発表では、まず最初のシートに、タイトル、所属、名前を示します。このときに、内容が良く分かるタイトルを付けることが重 要になります。次に実験を行う目的やその実験の背景について説明します。ここで、なぜこの実験や研究を行ったのかについて述べます。ここをはっきりと述べ なければ、発表が不明確なります。続いて、実験内容と実験結果について説明します。これらは、必要なものを簡潔に説明するように注意しましょう。全ての実 験について説明する必要はありません。最後に結論について述べます。これも長く複雑な言いまわしではなく、簡潔な表現で説明しましょう。

 

 上記の基本構造に当てはまるように、自分の発表内容についてプレゼンテーション用のシートを作成すれば、最低限必要な条件を満たしたプレゼンテー ションを行うことが出来ます。しかし、これだけでは、良いプレゼンテーションには不十分です。なぜなら、これは最低限必要条件を満たしただけで、聴衆が聞 いてくれることを前提としています。しかし、自分を売り込みたい場合や自分の研究発表に対して興味を強く持ってもらうためには、もっと工夫をする必要があ ります。

 

 まず、発表の構成を考える際に重要なことは、その発表の目標を明確にすることです。簡単に言えば、「重要な事柄を先に述べ、残りは後で説明する」という手法を取ります。これが科学技術の発表の基本構成です。

 

 一般的に、日本人の話は前置きが長く、なかなか結論を言いません。小説ならば、ゆっくりと背景を述べ、話の伏線があり、最後にあっと驚く事実を示 して読者を驚かせても構いません。しかし、10 分程度の短い時間の発表ではそのような構成は適当ではありません。つまり、話の核心の周りをぐるぐる回るだけで、なにが言いたいのかは、最後まで聞かない と分からない、また結局最後まで聞いても良く分からないような発表は、技術開発や科学研究のプレゼンテーションでは適当ではありません。プレゼンテーショ ンでは、「まず核心について話し、その後に詳細について説明する」といった構成にすべきです。

 

 最初に発表用のシートを作成すると、ほとんどの場合はシートの枚数が多すぎたり、発表する内容が盛り沢山になりすぎてしまういます。多くの場合、 発表のための時間が決められていて、その時間内に収めるために苦労することになります。ほんの少しのオーバーならば、言葉の工夫で処理することが出来ます が、大きくオーバーするときには根本的に改良を加えなければなりません。せっかくのデータ・文章・図表を切り取るのは難しいものです。しかし、時間内に収 めるために、無理に詰めこんで早口で話したり、短時間の説明で次々と新しいデータを見せるようなことをすれば、結局何も伝わらず、その発表自体が失敗に終 わってしまう危険性が高くなります。何を発表するのかを明確にしましょう。


 発表で述べる文章は、複雑な文章構造を持たせず、文章の一つ一つが明確な意味を持つように単文で構成するべきです。一つの文章で言いたいことは、一つだけを原則にします。また、事実と意見を明確に分けて述べるように注意します。述べていることが事実の発表か、意見の表明かを明確にする必要があります。

 

 結論も明確に述べるようにしましょう。結論一つの項目は、単文一つで述べます。項目はせいぜい三つくらいまでに収めます。言い訳や理由を結論に含めないようにします。

 

発表の心得

  • OHP シートの字が教室の最後尾からでも読めるように大きく書くこと
  • 1 シートに 10 行以内にすること
  • 内容を精選し、簡潔な語句にまとめる
  • 図やグラフ、写真を用いること
  • 数式、細かい表やテーブルを避ける
  • カラーを使い、カラフルに!
  • 大きな声ではっきりとしゃべること
  • 聴衆の方を向いてしゃべること

 

スライドの作成

 

 発表のためのスライドは、コンピューターを用いて作成するのが現在では一般的です。Microsoft PowerPoint などのプレゼンテーション・ソフトは、使用するスライドやオーバー・ヘッド・プロジェクター(OHP)の原図を作成することです。

 

 スライドを作成する際には以下の点に注意しましょう。

  • スライドシートは、口頭発表は相補うもの
  • 細部にこだわらない
  • グラフや表は簡潔にして、一目瞭然にする
  • 1枚のシートを1分で説明出来るようにする
  • 模式図や漫画絵を用いて分かりやすく
  • 文章を書かない
  • “話す”情報と“見せる”情報

 

原稿の作成

 

 口頭発表を行う場合には、必ず原稿を作成しましょう。原稿を作成するのは、プレゼンテーションにおいて原稿を読み上げるためではありません。原稿 を作成することによって、発表する内容を整理することが出来るためです。原稿を作成するときも、長い文章を書かないように注意しましょう。短い単文で文章 を作成しましょう。出来るだけ明確な表現を用いて、曖昧な表現を避けるようにしましょう。

 

ボディランゲージ

  • アイコンタクトをしよう
  • 聴衆の方を向いて話すこと
  • 目は聴衆を漠然と見るのではなく、特定の人の目を見て話すこと
  • ゼスチャーも大切

 

発表の注意点

  • 予行練習をすること
  • 原稿を持っているだけ(見ない)
  • 読むのではなく話すこと
  • 考えながら話すこと
  • 少しの文章をゆっくりと話すこと
  • 文節で間を取ること
  • 聴衆を見ながら話すこと
  • 手を後ろに組まない
  • 服装はよいものにする
  • 演壇の後ろにたたない
  • 部屋を暗くしない
  • またマイナス効果を持つ身振りをしない

 

練習なしに良い発表なし

  • 上手な発表には練習と努力が必要
  • 前日にちょっと話してみるだけではダメ
  • 練習では声を出して行う
  • 十分な練習は、緊張を少なくする効果があります
  • “話が先天的に上手な人“は努力家

 

発表は演技すること

  • 発表は演技:パフォーマンスである
  • 発表は聴衆を楽しませるためのもので、教えるのではない
  • 自分の成果と意見を明確にすること
  • 出だしを大切にすること

 

プレゼンテーションのハードウェア

  • スライド
  • オーバー・ヘッド・プロジェクター(OHP)
  • 液晶プロジェクター

 

参考文献

  1. 諏訪邦夫、"発表の技法"、講談社ブルーバックス (1996)
  2. 木下是雄、"理科系の作文技術"、中公新書 (1981)
  3. 松田卓也、"プレゼン道入門、URL=http://nova.planet.sci.kobe-u.ac.jp/~matsuda/review/presen.html
  4. 関山健治、"学会発表マニュアル"、URL=http://members.tripod.com/~sekky/presman.html
  5. 島宗理、 "研究発表マニュアル[口頭発表編]"、URL=http://www.naruto-u.ac.jp/~rcse/s_opre.html
  6. 藤本元、"若きエンジニア・エンジニアの卵諸君"、URL=http://comb.doshisha.ac.jp/